名古屋高等裁判所 平成10年(行コ)22号 判決 1998年12月18日
控訴人
福井信用金庫
右代表者代表理事
木瀬誠二郎
右訴訟代理人弁護士
杉原英樹
控訴人
河合茂
控訴人ら補助参加人
松岡町
右代表者町長
砂村義隆
右訴訟代理人弁護士
金井和夫
同
金井亨
被控訴人
金元直栄
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
八十島幹二
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一審、差戻前の第二審、上告審及び差戻し後の第二審を通じ、被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人ら
主文同旨
二 被控訴人ら
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 訴訟費用中、補助参加によって生じた控訴費用は補助参加人の負担とし、その余は、控訴審及び上告審を通じ、控訴人らの負担とする。
第二 当事者の主張
次のとおり付加するほか、第一審判決(福井地方裁判所昭和六二年(行ワ)第七号判決、以下「原判決」という。)の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の記載を引用する。
(補助参加人の主張)
仮に甲土地(原判決添付別紙物件目録記載一の土地)と乙土地(同目録記載三及び四の土地)との価格差が三分の一を超え、本件条例(昭和三九年三月一三日条例第六六号)によれば、甲土地と乙土地の交換契約(本件交換契約)が無効であるとしても、平成四年三月一九日、松岡町議会で本件交換契約を追認する趣旨の議決(以下、「本件議決」という。)がされたから、本件交換契約は適法、有効となったものである。
(被控訴人らの認否及び主張)
1 本件議決がされたことは認めるが、その余は争う。
2(一) 本件交換契約が締結されたのは、昭和六一年五月六日であるところ、本件議決がされたのは平成四年三月一九日であって、本件交換契約当時、その根拠となるべき議決は存在しなかったのであるから、本件議決をもって、地方自治法二三七条二項所定の議会の議決とすることはできない。
(二) 右のとおり、本件交換契約と本件議決との間には約六年が経過し会計年度も議会の構成も異なり、判断の基礎も変化しているから、本件議決がされたからといって、本件交換契約が地方自治法二三七条二項所定の議会の議決による場合に該ることにはならない。
(三) 本件議決は、その提案理由から明らかなとおり、本件訴訟の勝訴を目的とするものであり、本件交換契約自体について議決されたものではない。
(四) 補助参加人の理事者は、昭和六〇年一二月定例議会以降、松岡町議会本議会の審議において、本件交換契約は条例適合の契約として説明し、議会の議決を求めない旨明示していた。
(五) 本件議決は、補助参加人の当時の町長河合弘和が乙土地の所有者辻岡忍(以下、「辻岡」という。)の脅迫に屈した結果、町長の職権を濫用して本件議決の議案を提案して行われたものであるから、その提案は違法であり、したがって本件議決も違法無効である。
第三 当裁判所の判断
一 控訴人福井信用金庫の被告適格(争点1)及び本件条例二条の要件該当性(争点2)についての判断は、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の一及び二の記載を引用する。
二1 前記認定事実(引用する原判決第三の二)によれば、本件交換契約は、本件条例における価格差の要件を充たさないから、地方自治法二三七条二項により、本件交換契約について議会の議決を要するところ、平成四年三月一九日、松岡町議会で本件交換契約を追認する趣旨の本件議決がされたことは補助参加人と被控訴人ら間に争いがなく、かつ、丙第一一号証によりこれを認めることができる。
2 これに対して、被控訴人らは、前記第二の2(一)ないし(五)のとおり主張するので検討する。
(一) 地方自治法九六条一項六号及び二三七条二項は、地方自治体の財産の処分行為について、地方自治体の議会の議決によることとして、地方自治体が財産運営上損失を被ること、特定の者が利益を受けること、住民の負担を増加させること、ひいては地方自治を阻害する結果になること等を防止しようとするものであるから、前記のとおり議会が当該財産処分行為を後に追認的に議決したことにより、本件交換契約締結上の瑕疵は治癒されたものと認められる。したがって、被控訴人らの前記第二の2(一)及び(二)の主張は採用できない。
(二) また被控訴人らは、前記第二の2(三)のとおり主張するが、丙第一一号証によれば、本件議決の提案理由が本件訴訟の勝訴を目的としていたことは認められるが、同号証によれば、右提案理由は本件議決についての審議中に本件交換契約の必要性も追加され、かつ、右必要性についても審議されていることが認められるのであり、被控訴人らの右主張も採用できない。
(三) 被控訴人らの前記第二の2(四)の主張については、前記二2(一)記載の地方自治法の規定の趣旨に照らすと、補助参加人の理事者が従来どのような説明をし、又は態度を示していたとしても、本件議決の効力に影響を及ぼすものと解されないから、右被控訴人らの主張は採用できない。
(四) そして、被控訴人らは、前記第二の2(五)のとおり、補助参加人の当時の町長河合弘和が辻岡の脅迫に屈した結果、町長の職権を濫用して本件議決の議案を提案してされたものである旨主張するが、本件全証拠によっても、本件議決当時の町長河合弘和が辻岡の脅迫に屈したことにより本件議決の議案を提案したとは認めるに足りず、被控訴人らの右主張も採用できない。
3 以上の事実によれば、本件議決により本件交換契約は適法、有効となったものと認められるから、その余の争点について判断するまでもなく、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がない。
三 よって、控訴人らの本件控訴に基づき、右と異なる原判決は取り消して本件請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条、六二条、六五条、六六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渋川滿 裁判官河野正実 裁判官佐賀義史)